interviewSORAMIZU RYOSUKE

2024.9.6

新化が止まらない、クラフトコーラの可能性を専門家と語る

こちらの記事は2024年3月中旬にインタビューしたものを掲載しております

土屋「本日はKinKi Kidsのブンブブーン、マツコの知らない世界、松本幸四郎が沼るなどさまざまなテレビ番組のクラフトコーラ特集に出演し、全国を駆け回っておられるコーラのマニア・空水(そらみず)りょーすけ氏にお時間をいただきました、本日はよろしくお願いいたします」
空水「よろしくお願い致します、空水りょーすけと申します。コーラが好きで、2010年ぐらいからたくさんのコーラを飲んできまして、twitterや自身のコーラ専門サイト コーラ倶楽部などで感想を発信してきました。クラフトコーラに限らずコーラをマニアックに集めて飲んでいる方はなかなかいなくて、恐れ多いですがクラフトコーラの専門家として声をかけていただくこともあります。今では国際クラフトコーラ連盟 副理事長(2024年4月時点)をはじめ、コーラ系情報サイト Cola-fan 編集長も務めております。本業では都内で会社員をしまして、コーラはゆるく、あくまで趣味として楽しんでいます」
土屋「空水さんのコーラ知識は趣味の範疇を越えているので…期待していますよ。僕の名前も遼介ですので、本日はリョウスケブラザーズとして濃いお話しをしましょう(笑)」
空水「あはは、前にも言いましたが私のりょーすけはペンネームですよ(笑)」
土屋「僕はいつでもタッグを組みますよ(笑) —— さて、僕がはじめて空水さんとお会いしたのは、まだツチヤコーラの原液シロップが出来上がる前(2021年頃)でした。SNSを通じて空水さんからご連絡をいただいて、当時とても嬉しかったことを覚えてます。こうして時間を作ってお話しをさせていただく機会はなかなかないので、普段は語れないディープなクラフトコーラの話を聞かせてください」

 

クラフトコーラの定義 – craft cola definition

土屋「当店はマルシェなどの催事出店が多いのですが、いろんな方にクラフトコーラの定義ってなんですか?と聞かれることがあります。催事では時間が限られているのもありますが、僕は『もともとはコーラナッツが含まれたドリンクを指していましたが、最近では柑橘類とスパイスと砂糖を煮詰めたものを指します』と答えることが多いです。僕の説明の仕方が間違っていてはいけないので、ぜひこの対談という場で、空水さんのお考えを聞きたいと思っていたんです」
空水「そもそも定義の意味は、”概念の内容や用語の意味を正確に限定すること”なので、そういった意味では大勢の人が納得するクラフトコーラの正確な定義というものは現状存在していないんです。個人や団体など、それぞれの立ち位置によってクラフトコーラってこうあるべきという考え方はあって、それを基準にある程度線引きがされている程度です。たとえば多くの人がクラフトコーラに対する曖昧なイメージとしては”高級でスパイス感のある手作りのコーラ”といったものだと思います」
土屋「たしかに。実際にじぶんもお客様から似たような言葉をいただきますね。素材にこだわっているからコストがかかっている、スパイスがたくさん入っていてカラダに良いといったイメージを持っている方は多いはずです」
空水「(wikipediaを加筆も編集もしたことがない立場なんですが)クラフトコーラのwikipediaの最初には、”職人が作るコーラ、手作りのコーラを表したもので 独立性・伝統的・地域性などがキーワードとなっている、大手飲料メーカーが大量に生産するコーラと対比して使われる表現である”とあります。たしかにこれらはクラフトコーラを形成するに相応しい要素です。ただし、独立性・伝統がある、地域性があるという判断は人によって異なります。人によってその判断にブレが生じるものは定義とはいえません」
土屋「つまり、誰も疑問をもつことなくみんなが納得できる言葉でないといけないわけですね」
空水「そうです。おっしゃるように、もしクラフトコーラの定義を作るのであれば、クラフトコーラに全く詳しくない人でもその定義を見ればクラフトコーラかどうかを振り分けることができる普遍性のある数式のようなものでないといけないんです。ですので、私が考える定義としては”クラフトコーラという表記が容器ないし宣伝文句として使用されている液体“としています」
土屋「クラフトコーラという表記が使用されているかどうか、ですか。……思っていたよりも、定義の枠が広い印象を受けましたが」
空水「現状、世に出ているクラフトコーラを全て内包できる定義はこれしかないですよ。さきほども言いましたがここから狭めようとする既存のクラフトコーラへの概念は、定義の具体性が増すというよりかは、個人や団体の立ち位置によって都合よくイメージが狭められてしまいます。無添加のメーカーであれば添加物の入ったメーカーのものに疑問を持ってしまうでしょうし、大手飲料メーカーから出てるクラフトコーラしか飲んだことがない消費者にとってはそれがクラフトコーラの全てですから。どれかを否定するわけにはいきません。
加えて、私はクラフトコーラのマニアの前にコーラのマニアなので、実のところクラフトコーラの線引きにはあんまり拘りがないんです、クラフトコーラじゃなくてもコーラとして楽しめるので。そのため私の脳内ではクラフトコーラなんて表記が書いてあればいいんじゃね?という意見がマジョリティで、私の考えの根本にあります。ただ、私の中に極端な意見もあってやっぱりクラフトっていうからには自分で手作りして作ったものを提供すべき、金払って製造委託なんて論外という過激派もいるんですよ。もし私が作り手としてマルシェで手売りしてるような状態だとしたら、その意見がより多数派になると思います。……そう考えるとやっぱり定義としてはさっきのものがしっくりきますね」
土屋「僕自身が手売りであり、原材料も無添加のものにこだわっているから、どうしてもその面を強く意識していたかもしれません。こうして考えると、定義として回答するのは難しく慎重にならなければいけないものなんですね。とても参考になりました。」 

 

空水さんが気に入ってる瓶 – My favorite bottle

ボトル特許の証明
引用:特許商標庁の記録、国立公文書館
コカコーラ瓶 – 1915年
引用:The Coca-Cola Bottling Company

土屋「コーラが生まれた背景・エピソードがけっこう好きで、薬剤師ジョン・ペンバートン、南北戦争、禁酒法……いろんなキーとなる人や時代背景、環境が重なってコーラが生まれたと思うと感慨深いなあと思っています。
あと、コカコーラの瓶がくびれるようになったエピソードも好きなんです。コーラが人気になった当時はコピー品で溢れたそうで、瓶を特徴的な形状に、暗い場所でも手に取るだけでわかるようにしてトップブランドの確立を後押しした —— クラフトマンとしてアツイものを感じています。
空水さんはクラフトコーラに限らず、コーラのマニアとして世界中のコーラを飲んできたじゃないですか。美味しいコーラについて聞かれることは多いと思うので、今回はちょっと方向性を変えて、瓶(容器)に着目した場合にこれは面白いと思ったコーラってありますか?」
空水「やっぱり気に入ってるというか、デザインとして頭ひとつ抜けていると思っているのは、千葉県の銚子灯台コーラ(※1)の瓶ですかね。

引用:銚子灯台コーラ

夜明けの炭酸水とセットで注いだ時の色の変化も鮮やかで美しいですが、とにかく瓶がいいんです。瓶はその見た目から灯台マニアからの問い合わせもあるみたいで、クラフトコーラ好き以外の人間にも興味を沸かせているそうです、そんなコーラなかなかないですよ。また、瓶のキャップの上のカバーですが……土屋さん、これってなにかご存じですか?」
土屋「キャップですか。銚子灯台コーラさん、見覚えはありますし飲んだこともあるのですが……特別変わっていることはないように思えます」
空水「このカバー、物干し竿の先端キャップをヒントに加工して作られたそうですよ」
土屋「え~~っ、知らなかった!それは面白い!」
空水「メーカーのちょっとした工夫によって灯台を象徴する唯一無二のコーラに仕上がっています。こういう裏話、面白いですよね」
※1)10種類のオーガニック素材と発酵調味料「ひ志お」から出来た身体に優しいクラフトコーラ。大地をイメージした茶色いコーラシロップに、空と海をイメージした特製の青い炭酸水(夜明けの炭酸水)を混ぜることで朝焼色に変わる様はまるで犬吠埼の夜明けを思わせる。

銚子灯台コーラにてエピソードを語ってくださいました(2024.9.9)

 

近年のクラフトコーラ – Craft cola in recent years

土屋「近年のクラフトコーラをテーマに、空水さんにお話しを伺いたいと思います。当店ではカルダモンやシナモンをはじめとしたスパイス7種と瀬戸内レモンを煮詰めて作っています。全国のクラフトコーラに目を向けると、たとえば材料だけでもレモンの代わりにライムが使われていたり林檎や蜜柑が加わっていたり。甘酒やハーブ、カカオが使用されるなどさまざまなクラフトコーラがあります。全国で数えきれないほどのクラフトコーラが生まれていますよね」
空水「そうですね、ただ近年のクラフトコーラといっても味や特徴が大きく変化しているわけではありませんので、最近の傾向についてお話ししましょうか。数年前にあったクラウドファンディングでクラフトコーラを作るプロジェクトなどは最近はほとんどなく、国内でクラフトコーラを作りたい、販売したいと思っている人はほぼほぼ出し終わった感じがします。今でもコンスタンスに登場していますが、現在私が知る限り1000種類以上のクラフトコーラが登場しており、日本全国割とまんべんなく偏在しています。クラフトコーラが出始めた頃は〇〇県初とか〇〇という材料が入っているというものが謳い文句にできましたが、そういったものはもう殆どやられてしまっているので、後発のメーカーは個性が埋もれがちになっているように見えます。クラフトコーラというだけで持てはやされていた時代は終わり、今後はよほどインパクトのあるものか戦略を練られたものでないと存在感を出すのは難しいと思います」
土屋「ただ出すだけ作るだけでは、手にとってもらいにくいわけですね」
空水「そうですね。また、クラフトコーラは登場してから6年弱になりますが、数年間販売し続けていたメーカーさんが終売に転じることも見られるようになりました。これまでも1回だけ発売して以降登場しないクラフトコーラも結構ありますが、数年のスパンで販売されていたものが終売になる例は今後増加していくことになるのかと思います」

RTDの変化 – RTD changes

土屋「近年のクラフトコーラにも通じますが、缶で飲めるタイプのクラフトコーラが増えてきましたよね。業界にとって大きな変化で、僕はまだクラフトコーラを飲んだことがないという方にも味わっていただく機会が増えるのではないか。好きになってもらえるきっかけになるのではないかと期待しているところがあるんです。クラフトコーラを飲むことが日常化したりするのかなと妄想したり。空水さんはどのように思われていますか」
空水「クラフトコーラメーカーさんは最初、比較的小ロットで販売できるシロップ瓶や自身で飲食店をやっていればそこで販売して、力やノウハウを貯めていくわけですが、その後のステップアップとしてRTDを目指すメーカーさんも多く居ます。シロップ瓶に比べれば手軽に購入できて持ち運びやすいRTDは需要があり、より遠くへ、より多くの人に自分たちのクラフトコーラを届けられるチャンスとなるからです。
こういったRTDの話をするとき、容器は瓶を差しますが、最近ではおっしゃるように缶のクラフトコーラも登場してきました。数年前より大手飲料メーカーから缶タイプのクラフトコーラが登場しているのは皆さんも御存知のことと思いますが、昨年からはUMAMICOLAさんや伊良コーラさんなどの有名クラフトコーラメーカーも缶のクラフトコーラに参入しています。UMAMICOLAさんはクラフトコーラ専門缶工場UMAMI COLA La Fabricaを新設し、完全自社製造の本当に拘り抜いた缶クラフトコーラを販売しています。また伊良コーラさんもナチュラルローソンを皮切りに1都6県のローソンで販売されるという実績をもち、同社が掲げるコカ・ペプシ・イヨシと呼ばれるような日本発の世界的なドリンクを創るという目標に向かって着実に進まれています。
とはいってもこれはあくまで極端な例で、以前として缶のクラフトコーラの販売というのは一般的なクラフトコーラメーカーにとってはハードルがかなり高いのではないかと」
土屋「やはり一番の壁は製造のロット数ですよね」
空水「はい、委託の場合の最小の製造ロット数も缶の場合、30万本程度~なので小規模でやられているメーカーさんなどは数千本から製造できる瓶のRTDが主流なわけです。ただ、クラフトコーラをはじめクラフトドリンクの需要というものは伸びてきており、たとえばエナジードリンクなどでも小ロットの缶飲料を作りたいという動きも出てきています。今はそういったクラフトドリンクメーカーの受け皿となる缶工場は殆ど無いと行っていいですが、それがきちんとビジネスになると判断されれば、小ロットでも缶飲料にできる何らかの手段は今後登場してくると思います。
昨年はノンアルコール飲料の製造・充填を行うクラフト飲料工場『CAN-PANY』さんが登場し瓶詰や缶詰の様々な小ロット製造も可能となりました。また、タイではクラフトコーラの缶でのテイクアウトができるようになっていて、お店に缶を密閉するシーリングマシンがあってドリンクを入れてくれるような販売形態もあるんですよ」
土屋「お~!国内に限らず海外でもそのような販売形態が」
空水「実は日本でもイベント等でたまに缶飲料のクラフトコーラがこの形態で販売されています。ただ日本でもタイでもあくまで簡易容器という扱いなので全国流通できるようなタイプの缶ではないのですが、制約がある中でもなんとか工夫をして缶飲料を出されています。需要が高まればこれらの機械を発展させて全国流通が可能になるような充填装置も登場するかもしれません」
土屋「どんどん技術は発展してますし、そんな機械がいつ登場してもおかしくないですね」
空水「そのうえで、土屋さんは最初、缶のクラフトコーラが出ることで日常的に飲めるように、つまり一般普及を願うとお話しされましたが、どうしても缶のクラフトコーラの単価ってだいたい500円前後にはなってしまうでしょう」
土屋「炭酸飲料としては、正直価格は高いですよね」
空水「ええ、いまでも消費者にとってクラフトコーラ=高価なものっていうイメージは強くて、市販のコーラとの違いってなんなのか。ちゃんと示していくことも求められてきます」

 

空水さんからの一言「これからのクラフトコーラ」 – Craft cola of the future by soramizu

土屋「これからのクラフトコーラへの想いや願いなど、なんでも構いません。最後の一言として、空水さんのメッセージをいただければと思います」
空水「実は先日、タイ旅行に行ってきたんですよ。現状、クラフトコーラのほとんどは日本のブランドですが、タイは常夏の国だからか、現地の人々がコーラを作ることに積極的なんです。コロナ禍のため断念していた旅が、今回ようやく実現しました。
都市チェンマイにあるドリンクスタンド・Helo Colaでは、カルダモン、シナモン、クローブなど、日本のクラフトコーラでもみかけるスパイスがよく使われています。チェンマイでとれた食材も使用されていたり、クラフトコーラ専門店として10種類以上のさまざまなフレーバーのクラフトコーラを飲むこともできて、かなりハイレベルなクラフトコーラでした。バニラの香りが程よく立ち、柑橘の味も明快で美味しかったです。

空水「こうした、美味しいクラフトコーラが外国にもあることを再認識できた楽しい旅だったのですが、そのこともあって『これからのクラフトコーラ』というテーマをいただいたときに、僕はクラフトコーラと旅を結びつけたいと思ったんです。」
土屋「クラフトコーラと旅、ですか」
空水「味にこだわったもの、健康を意識したもの、ご当地に力をいれたものなど、クラフトコーラは個性豊かで、それぞれに魅了が詰まっています。全国各地を巡りながら、いろんな銘柄のクラフトコーラを飲んで、美味しさとあわせて一つひとつに込められた背景・こだわりも学べるような…そんなクラフトコーラならではの楽しみ方が出来るといいと思うんですよね」
土屋「なるほど!僕もまだまだ知らないクラフトコーラ山ほどありますし、そんな旅が実現できると楽しそうですね!それならば、空水さん鉄道好きでもあるじゃないですか。鉄道で各地を巡りながら片手にコーラを味わうのはどうでしょう?」
空水「いいですね、夢が広がりますね」
土屋「クラフトコーラは味だけでなく、香りや食感…人の五感に美味しさを届けることが出来るコンテンツだと思っているので可能性はきっと無限大です。ぜひいつかクラフトコーラと旅を実現させましょう。
なかなか聞けない、貴重なお話しをたくさんお聞きすることが出来ました。本日はありがとうございました!」
空水「ありがとうございました!」

※本作の無断転載は、厳しく制限させていただきます